ラピナス社 特殊工業材料
活用事例(コーティング用途)
ラピナス繊維はオランダのラピナス社で製造された世界で唯一の生体溶解性ロックウールです。天然石から製造され厳密な化学組成管理が行われています。
ラピナス繊維をコーティングに使用した場合、製品の性能を大きく改善することができます。水系、溶剤系及び2液性塗料と幅広い塗料に使用することが可能です。ラピナス繊維の特長は以下の通りです。
塗膜強度の強化と耐久性の向上
ラピナス繊維を入れたエポキシ樹脂塗料を塗装後、1分間液体窒素環境下に置き、塗膜の状態を評価しました。
ラピナス繊維を入れないエポキシ塗料は表面に多くのクラックを生じ、金属基材との接着力を失いましたが、ラピナスCF10を入れた場合、クラックもほとんど発生せず、基板との接着力にも影響がありませんでした。CF10は塗膜を強化し、外部から与えられた強いストレスを吸収したと考えられます。
耐クラック性の改善とギャップ(隙間)充填効果
CPVCを超える高充填の壁用塗料はクラックが発生します。ラピナス繊維は塗膜強度を損なうことなしに耐クラック性を向上します。
多孔質のコンクリート外壁では耐クラック性とギャップを充填することは重要です。アクリル系塗材にラピナスCF50を入れることにより塗材の隙間を埋め、塗膜を強化することができます。
耐衝撃性の改善
ラピナス繊維の塗膜強化特性は保護用塗料やマリン用塗料に非常に役に立ちます。これらの用途では塗膜の強靭さと耐衝撃性が重要です。物理的に損傷を受けた塗膜は錆の発生原因となり、その結果、製品寿命が縮まります。エポキシ系塗料を塗った金属基板でボール落下試験をした結果、ラピナス繊維を添加することにより塗膜の落下衝撃強度が格段に改善しました。
発泡性耐火塗料
燃焼を遅延させる目的や発泡性耐火塗料用でラピナスのロックウールは非常に有効な添加材として使用されています。ラピナス繊維の添加により、耐火塗料の塗膜強度を上げ、耐クラック性が増し、寸法安定性が改善し、収縮率が低くなります。また、炎に爆露された後の炭化層の強度を増すことができ、それは断熱効果と炭化層の耐久性を強化することになります。
レオロジーに対する影響
ラピナスのロックウールは他の無機粒子と同様に塗料の粘度に影響を与えます。その結果、流れ性、レベリング性、だれ止め性、塗膜厚や塗装性に影響を及ぼします。ラピナス繊維の添加によって高粘度の塗料でも低粘度の塗料でもつくることができます。吸油量の小さいCF10は低粘度の塗料に向き、長繊維で吸油量の大きいCF50は高粘度の塗料を製造するのに適しており、厚塗りが可能になります。ダレ防止に非常に効果があります。
生体溶解性ロックウールの特徴と用途展開
オランダ ラピナス社Roel Hebben & Daan de Kubber
愛知産業株式会社 田村 誠(先進機能部 先進材料課)
はじめに
産業界では強化材や摩擦材などには耐熱性繊維が使用されているが、繊維が使用される際は材料を取り扱う人々の健康に害を与えないことが重要である。最も確実な手段は人体に吸引されても健康を害しない生体溶解性繊維を使用することである。ロックウールを原料とするオランダ・ラピナス社の生体溶解性繊維は国際的品質認証機関であるRALやEUCEBによって発がん性分類に該当しないことが認証されている。
生体溶解性繊維とは
アスベストの使用禁止以来、生体溶解性繊維は多くの人々の関心事になった。人造ガラス質繊維(MMVF)がしばしばアスベストの物理的特性に関連付けられた(図1)。故に、大規模な疫学的な研究が1940年代から始まった。健康、安全や環境へのリスクに関する研究は年々深化し国連が主導したGHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)の制定に繋がった。
図1:人造鉱物繊維の分類
MMVF(人造ガラス質繊維)が吸入された場合、人体の健康を損なう可能性がある。世界保健機構(WHO)は1960年代にアスベスト測定のために、吸入可能繊維の定義を下記のように決めた。この定義は吸入可能なMMVFとして一般的に認知されている。(ref 1):
・ 繊維長 (FL) > 5μm
・ 繊維径 (FD) < 3μm
・ アスペクト比 (FL/FD) > 3
スピニング法で生産された繊維は通常、上記の定義に該当する。繊維が吸入された場合、人体がその繊維を体内で溶かすことができるか、排出することができるかが重要となる。さもなければ繊維が肺組織に残留する。肺に残留した繊維は炎症を起こす可能性があり、最悪の場合、癌を発病させる可能性がある。繊維が体内から排出された場合、これらの負の効果は存在しない。生体溶解性により溶解性や吐出性が加速される。繊維が生体溶解性の化学組成であることが重要な要素である。
ラピナス社について
ラピナス社はデンマークに本社を置くロックウール(ROCKWOOL)グループの一員である。25年にわたり精密設計した持続可能な生体溶解性無機繊維の製造を行っている。厳密に化学組成を管理し、認証団体から安全性の認証を受けた無機繊維を販売している。ラピナス社無機繊維は摩擦材、コーティング、ガスケット、特殊紙など各種複合材用途で使用され、日本では愛知産業が代理店をしている。
ラピナス社は用途開発に特化した強い技術部門を持ち、営業及び研究開発をしている組織である。顧客のニーズを応え、新規繊維または改良品の開発または解決策を提案できる。ラピナス社の親会社のロックウール社では繊維技術の基礎研究が集中して行われており、ラピナス社はロックウール社のR&Dから繊維製造のコア技術を引き出すことができる。
ロックウール社はグローバルAランクサプライヤーとして一般的に認知されている。継続的な技術サポートを行い、要求に応じて現場でのエンジニアリングサポートを提供している。使用される原材料と製造工程のおかげで、ラピナス繊維は循環経済に適合し、100%リサイクル可能である。この持続可能な無機繊維は生体溶解性の認定を取得し、常に一定の高品質を維持している。
ラピナス社の無機繊維は吸入可能であると考えられているが、生体溶解性が非常に高いことが証明され生体内に残存する可能性が非常に低い繊維である。繊維は体内から急速に排出されるので非発癌性であると考えられている。生体溶解性を確実にするために化学組成は厳密に管理され常に一定である。化学組成の一貫性は、品質認証機関であるRAL(Deutsches Institut für Gütesicherung und Kennzeichnung)やEUCEB(EUropean CErtification Board for mineral wool products)が毎年行う工場での抜き打ち検査により証明されている。
1997年、EU 指令 97/69/EC は、ランダム配列のアルカリ及びアルカリ土類金属酸化物(Na2O + K2O + CaO + MgO + BaO)の含有量が18%以下のMMVF(人造ガラス質繊維)を発癌性カテゴリー1B(ヒトへの発がん性が推定される物質)、アルカリ及びアルカリ土類金属酸化物の含有量が18%を超える場合、カテゴリー2(ヒトへの発がん性が疑われる物質)に分類した。同じEU指令に、MMVFを発がん性分類から除外するNoteQ条項を入れた。以下の試験に合格した場合に生体溶解性繊維として認識されNoteQを満たす繊維として認定さる。
・ 短期吸入暴露試験(IHテスト):半減期が10日未満
・ 短期気管注入試験(ITテスト):半減期が40日未満
・ 適切な腹腔内投与試験(IP試験):有意な発がん性なし
・ 的確な長期吸入暴露試験
表1に示すようにラピナス社の無機繊維はアルカリ及びアルカリ土類金属酸化物が18%以上の分類に該当するが、ITテストで半減期が40日を大幅に下回る結果だったため発がん性分類から除外された。
成 分 | 含有量 [重量%] |
---|---|
SiO2 | 41 |
Al2O3 | 20 |
TiO2 | 2 |
Fe2O3 | 6 |
CaO + MgO | 25 |
Na2O + K2O | 4 |
Other oxides | 2 |
表1:ラピナス社の無機繊維の化学成分
表2は独立した試験機関であるFraunhoferとRCCで測定された肺の中での無機繊維の半減期を試験した結果である。これらの独立機関での測定によりラピナス社の無機繊維は生体溶解性が高く、発がん性分類から除外されることが確認された。
無機繊維の種類 | 半減期 [WT1/2], 日数(繊維長 > 20μm) | |
---|---|---|
Amosite | アスベスト | 418 |
MMVF32 | Eガラスマイクロ繊維 | 79 |
RCF1 | セラミックファイバー | 55 |
MMVF21 | 一般的な無機繊維 | 67 |
MMVF34 | ラピナス繊維 | 6 |
表2:鉱物繊維の半減期(ref 2)
2002年にWHOはMMVF(人造ガラス質繊維)を疫学的な方法及び動物試験によって再度評価した。一般的な無機繊維(MMVF21)とガラス繊維はヒト発がん性に分類されないと言う結論であった(ref 3)。IARC(国際ガン研究機関)は1990年代後半にEUで開発された新しいMMVFを動物試験で評価し、ラピナス社のMMVF34などは発がん性がないと結論付けた(ref 4)。
表2でわかるようにラピナス繊維MMVF34は一般的な無機繊維の10倍の生体溶解性を持っている。
世界中の様々な独立した研究機関で試験され、ラピナス繊維MMVF34は生物学的に体液で溶け(ref 5)、マクロファージの存在下で呼吸器官から排出されることが証明された(ref 6)。従って、ラピナス繊維MMVF34は生体溶解性であり発がん性でないことが明確である。この結果はMMVF34の一貫した厳密に管理された化学組成に起因する。
ラピナス繊維の製造方法
ラピナス繊維の製造はロックウールが出発原料である(ref 7)。ロックウールは天然鉱石を1500℃以上の炉で溶かし、スピニング法により製造する。化学組成を常に一定にするために、ブリケットと呼ぶ調整成分を添加し、天然鉱石の成分のバラツキを修正している。溶融した鉱石を回転するロールに落とし、遠心力により繊維化する。このロックウールを中間原料として、ショットの除去と繊維長の調整を行うことによって各種ラピナス繊維製品を製造している(図2)。
図2:ラピナス繊維の製造方法
ラピナス社の無機繊維のパラメーター
ラピナス社の技術力は様々な用途における要求を満たすために繊維に数種類の重要なパラメーターを与えることができる。それは繊維長、繊維径、サイジング剤及びショット含有量である(図3)。
図3:無機繊維の特性
先述した製造方法の特性で全ての繊維にショットと呼ばれる小さな非繊維成分が含まれる。ラピナス社の製造方法は0.1%未満までショット含有量を低下させることができる。
繊維長は100μmから650μmの範囲で管理することができる。各種用途の要求に応じて異なる繊維長の製品をつくることができる。
複合体に無機繊維を入れることにより強度を上げることができる。無機繊維と他の成分との結合力を上げるために、繊維表面にカップリング剤をコーティングすることにより最適な化学結合を形成することができる。様々な用途の要求に応じていろいろな表面処理剤を選択し機能を付与することができる。
主な用途
ラピナス社の無機繊維はブレーキパッドの機械的強度及びトライボロジー(摩擦学)の改善に貢献している。摩擦材の性能は全ての原材料の相乗効果により発揮される。一般的に摩擦材は10-20種類の原材料から成る。原材料其々の独特な化学組成、大きさや形状で設計される。これらの原材料は粉末混合された後、熱プレスされて摩擦材となる。製造途中で工場作業者は全ての原材料に曝される。従って、原材料は人体に安全で環境に優しいものでなくてはならない。
図4:ラピナス繊維(MMVF34)のSEM写真
摩擦材以外でも、ラピナス繊維はガスケット、塗料や特殊紙に使用されている。ラピナス繊維は高アスペクト比と優れた耐熱性(約1000℃)のためこれらの用途に非常に適している。高温でも優れた強度を付与し高い寸法安定性を維持する。これらの用途においても工場作業者は原材料に曝されるので、生体溶解性ラピナス繊維は優先的に使用さるべきである。
おわりに
健康や安全への要求の高まりや環境規制の強化に伴い生体溶解性繊維の需要は今後も増加すると思われる。市場にはラピナス社の他にも"生体溶解性繊維"として販売している製造メーカがあるが、信頼できる国際的な認証機関による発がん性分類非該当の認証を取得し、定期的な検査を受け顧客に対して証明書を提示できる無機繊維メーカは、日本国内では、当社が取り扱うラピナス社以外にはない。
参考文献
(1) Timbrell, V., Pooley, F.D., Wagner, J.C., "Characteristics of respirable asbestos fibres", Pneumoconiosis, 1970.
(2) Hesterberg et al., "Halftime of fibres in lung (bio-persistence) short term inhalation test", 1998.
(3) IARC Working group, "IARC Monographs on the evaluation of carcinogenic risks to humans", vol. 81, 2002.
(4) IARC press release No 137, http://www.iarc.fr/en/mediacentre/pr/2001/pr137.html, 2001.
(5) Guldberg, M., Christensen, V.R., Perander, M., Zoitos, B. et al., "Measurement of In-Vitro Fibre Dissolution Rate at Acidic pH", Elsevier Science Ltd., Vol. 42, No. 4, pp. 233- 243, 1998.
(6) Guldberg, M., "Development of Biosoluble Stone and Glass Woll Fibres", Tidsskrift for Dansk Keramisk Selskab, 6 (1), 2004.
(7) www.lapinus.com
(8) www.rockwoolgroup.com
日刊工業新聞「工業材料」2018年12月号掲載