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3D金属積層造形における海外の動向
愛知産業株式会社
金安 力
1.はじめに
先進諸国で今最も注目されている技術として3Dプリンタがあげられる。アメリカのオバマ大統領が3Dプリンタの重要性を「3Dプリンタを活用してアメリカに製造業を呼び戻す」と訴え、その技術開発を支援することを表明したことは記憶に新しい。
ドイツでは2008年にパタボーン大学に研究センターを設立。2013年には政府が大幅な支援を行うことで、各関係企業が参画し、設計ルール、コスト分析、リペア、複雑形状、材料開発、強度評価など産学官での研究を開始した。また英国でも2010年に政府支援のもと研究所が設立され、ロールスロイスやエアバスなどの企業が参画しての実用化研究に着手している。
このような世界の動きに触発されわが国でも、2014年経済産業省主導のもと、3D金属積層造形機の開発を国家開発プロジェクトとし5月29日に、産学官の30団体が5年間で国産の3D金属造形機を5,000万円以下で作る計画や材料を含めた関連商品開発がようやくスタートした。
本稿では、このような背景の中、欧米で既に多数採用され実際にものづくりに使用されている、ドイツのSLM Solutions社の3D金属積層造形機と金属積層造形用に金属粉末を提供している英国のLPW Technology社について述べるとともに、そのマーケットや将来の展望について述べる。
2.市場動向と販売開始の背景
2.1 販売開始の背景
世界の動きと、日本での国家プロジェクト始動の動きなどから、金属の積層技術はさらなる技術革新と産業への応用が大いに期待される。金型、鋳造、切削技術や、補修部品の保管を不要にするなど、世界で「ものづくりのプロセス」が一気に変わる可能性が高くなってきた。「設計が変わる」、「今までに無い新しい発想の製品が作れる」、「熟練工の技術を補える」など、製造業革命の予兆さえ感じられる動きが先進諸国ですでに始まっている。
そのような環境のなか、当社が3D金属積層造形ビジネスに参画するに至った背景には、@創業以来70年以上にわたりアーク溶接を主とした溶接関連ビジネスを国内に展開しており、溶接に関する十分なノウハウを蓄積している、A3年前よりレーザ溶接機器の取り扱いを開始し、2年前からはレーザに金属パウダーを入れながら溶接を行うLMD(Laser Metal Deposition)装置を当社のデモンストレーションルームに設置し、国内への技術紹介に努めながらレーザによる粉末溶融技術の蓄積を行ってきたこと、などがある。
とくにLMDはすでにこの時点で欧米に50台以上の納入実績が有った。この装置は、金属の表面に付加価値をつける異種金属パウダーを肉盛するだけでなく、金属を積層しながら立体構造物を作るという金属積層技術の基本ノウハウを必要とする装置である。
ここで技術的に大変重要なことは、高品質な金属の積層を連続的に行うためには、金属パウダーの形状を含めた、その品質が大いに出来上がる被膜に影響するということであり、当社の金属パウダー技術が大いに役立った。
そのころ欧米ではすでに、LMDに用いられる高品質パウダーを利用し、3D金属積層造形への取り組みが一気に広がり、各社3D金属造形装置を用いた製品開発が広がっていた。また欧米においては、パウダーの一層の高品質化を求めるニーズが出始め、求められる金属の溶解中やアトマイズ中から介在物を取り除く開発もスタートしていた。
当社はアーク溶接技術にはじまり、3年前よりレーザ溶接、そしてLMD(Trumpf社)、および金属パウダー(LPW Technology社)の日本代理店契約を締結し、それらの取り扱いを始めた。そのような環境の中で、3D金属プリンタのものづくりに果たす役割の重要性と可能性を感じていた。そして今年4月にはすでに170台以上の納入実績を持つドイツの3D金属積層造形機メーカー SLM Solutions社と日本代理店契約を締結するに至った。
3D金属積層造形機にドイツのSLM社を選んだ理由は後述するように、競合品に無い特色と将来性を有することである。また金属パウダー供給者に英国LPWテクノロジー社を選んだ理由は、これも後述するように溶融凝固積層技術を充分に熟知し、3D積層造形に最適なパウダーを供給でき、これから拡大する種々の金属パウダーの要求に十分対応できると判断したからである。
これらを販売するにあたり、必要なサポート技術を考えると、溶接冶金技術があり、これは当社本業の70年以上にわたる経験とノウハウが活かせる。また輸入溶接関連機器および工作機械等のサポートやメンテナンスを実施している経験を活かせることから、本年4月より「3D金属積層造形事業」を本格的に展開することにした。
2.2 市場動向
金属積層造型機は世界ですでに1,000台が市場に入り、日々ユーザーから装置メーカーへフィードバックが繰り返され、装置メーカーはその改良に余念がない。世界の1,000台のユーザーは3D金属積層造形機を使って新商品の開発を目指し、必要に応じ商品やプロセスを含め工業所有権の確率を目指しながら商品開発に取り組んでいる。
一方日本では、3D金属積層造形機の導入台数はわずか30台から40台程度であると言われており、前述したように、ようやく経済産業省主導のもと、日本製の高品質で安価な装置の開発を目指し、将来世界市場で日本が装置を含め3D関連ビジネスの主導権を握るためプロジェクトがスタートしたばかりである。
しかし、世界の中の日本のものつくりのおかれた立場を考えるに、時間軸も大変重要であると考える。新商品の開発、高品質の商品開発等、世界に肩を並べリードしていくためには、世界の最先端装置と高品質パウダーを含めた、現在ある3D関連技術を大いに用い、ものづくり大国を牽引するような商品開発、すなわちアイデアを物にし、ビジネスに展開していくという姿勢が大変重要と考える。失われた時間は買えない。今チャレンジすることが重要と考える。
3.装置の概要
3.1 3D金属積層造形の原理
3D金属積層造形装置の基本原理を図1に示す。図1のように、あらかじめ金属粉末をテーブル上に敷き詰め、その上からレーザを照射することでレーザが照射された部分のみが数10ミクロンという厚みで溶融凝固していく。金属粉末を敷いてはレーザを照射するというプロセスを数千層数万層と繰り返すことにより金属の複雑な構造物ができる。ここで重要なのは、25mm×25mmの立方体を作ろうとした場合、その溶接長は約8,000メートルである。この8,000メートルを欠陥なく溶接施工するということは、機械はもちろん材料とそのプロセスがいかに重要かということは容易に想像できるであろう。
3.2 SLM社3D金属積層造形装置
SLM Solutions社は最大造形エリアの大きさと用途に応じた3機種をラインアップしている(表1)。
型式 | SLM125型 | SLM280型 | SLM500型 |
---|---|---|---|
最大造形エリア | 125×125x75 | 280×280×350 | 500×280×325 |
最大造形速度 | 15cm3/H | 35cm3/H (*1) | 70cm3/H (*2) |
レーザ出力 | 100W/200W | 400W / 400Wx2 / 400W+1000W | 400Wx2 / 400Wx4 / 1000Wx2 |
レーザ走査速 | 20m/sec | 15m/sec | 15m/sec |
単層肉盛厚 | 20μ-70μ | 20μ-150μ | 20μ-200μ |
単層肉盛幅 | 140μ-160μ | 200μ-1000μ | 160μ-180μ |
主な用途 | 試験・試作 | 標準部品・小型部品対応可 | 大型部品・自動製造機能可 |
表1 SLM社型式と仕様概要
*1:400W 1台の場合
*2:400W 2台の場合
3.3 SLM社3D金属積層造形機の特徴
SLM社の3D金属積層造形装置の特徴を以下に説明する。(写真1〜3)
(1)4台までのレーザが搭載できる。
@ 金属の凝固ひずみを最小限に制御できる。
A 稼働時間が大幅に削減できる。
B 広い面積と微細加工の両方が同時に加工できる。
(2)各種金属材料に適したパラメーターをユーザーが自由に設定できる。
(3)粉末を撒く動作はヘッドの片側移動でパウダー高さ調整まで完了。レーザの複数台同時施工と合わせて施工時間を最大30%削減できる。
(4)ベースプレートを加熱する機構を有し、歪みや応力対策機能を有す。
(5)SLM280型の場合加工エリア280mm×280mm×350mmHであるが、その中央に100mm×100mmの小型プレートを仕込むことができる。これにより効率よく小物から大物まで1台の装置で可能。
写真1 SLM280型 装置外観
写真2 金属積層造型後の装置内部
写真3 粉末コーティングシステム(リコーター)
4. 粉末材料が果たす役割
4.1 LPWテクノロジー社について
LPWテクノロジー社は2007年にDr.Philip A Caroll氏によって設立された比較的若い会社である。同社は金属積層造形プロセスの各方式であるLMD(Laser Metal Deposition)、 SLM(Selective Laser Melting)、 EBM(Electron Beam Melting)用の材料を供給することを目的とし、欧米におけるこれらの技術の発展に材料開発の立場から大きく貢献してきた。従来の金属粉末の供給会社と違うところは、3D積層造形技術を理解し、それらが求める要求、すなわち金属粉末の徹底した品質管理から新合金の共同開発はもちろん、施工プロセスに至るまで幅広いサポートを行ってきたことである。ユーザーの使用目的に応じ常にコスト、品質、安定性を達成し、業績を伸ばしてきた企業である。
同社が3D金属積層造形の分野で高い評価を受けるようになったきっかけは、2010年に航空宇宙向けの材料開発においてイタリアのAVIO社と長期OEM契約を結んだ事である。結果として航空機エンジンのLPタービンブレード用のチタンアルミナイド合金粉末の開発に成功した。現在は3D金属積層造形で作られたチタンアルミナイドのタービンブレードが実機に採用されている。(写真4、5)そして2013年には航空宇宙向けの規格AS9120を取得。続いて今年2014年に入ってAS9100を取得したことで航空宇宙向け3D金属積層造形用粉末の供給者として大きな存在感を示し始めた。
写真4(左) タービンブレード(Avio) 写真5(右) タービンブレード
4.2 高品質粉末とは
金属の積層造形技術において扱われる材料は多岐に亘っている。主な材料だけでもニッケル系、コバルト系、Fe系、アルミ系、チタン系、銅系そしてセラミックス系合金等がある。積層造型に使われる粉末は粒度がそろい、サテライト(写真6)、や内部ポロシティの少ない粉末が要求される。
写真6 サテライトを含む金属粉
サテライトとはガスアトマイズ法で粉末を作る際に母体となる粉末に小さな粉末が衛星のようにくっついているものをいう。内部ポロシティとは粉末そのものにガスアトマイズの気体が閉じ込められてしまうものをいう。どちらも溶接欠陥の発生原因の一つに成りやすいものである。
写真7(左) 適さない形状 写真8(右) 適応形状
高品質粉末とは、これらを可能な限り少なくしている材料であり、その提供を行っているのが先に述べたLPWテクノロジー社である。
LPWテクノロジー社の形状から見た知見として、現在一般的に金属粉末と呼ばれている写真7のような金属粉末は金属積層造形用には適さない。写真8の形状は適しているといえる。次にLPWテクノロジー社が品質管理している一例として以下のデータを紹介する。縦軸に密度、横軸に照射エネルギーを示しその関係を表している。同一材料でもバッチCのように密度がエネルギーの大小にかかわらず低い場合適さないことが分かる。
同社は標準材料として25種類以上すでに供給している。また金属積層技術の適用目的からいって、各ユーザーは独自開発の要求も非常に多く、それら特注品の種類を含めると400種類以上の粉末を供給している。この意味するところは、3D金属積層技術において先行する欧米諸国ではメーカー純正の材料はもちろん、製品の他社との差別化を図るためにオリジナルの材料で製品開発を行っている会社が非常に多いということである。LPWテクノロジー社におけるその大きな成功事例の一つとしては先に述べたイタリアのAVIO社の例が挙げられる。また、LMDという技術においてもアメリカのスタンレー社に協力し、工業用カッターナイフの刃先にタングステンカーバイドの粉末を積層し長寿命をうたい文句に「カーバイドブレード」(写真9,10参照)という商品の開発に成功した。筆者は4月米国出張の際、ホームセンターによりメイドインUSAと書かれた替え刃を購入してきた。すでにメーカーは商品の売れ行き好調とのことで、LMDによる金属積層ラインを10ライン導入していると聞いている。
図10 カーバイドブレード装着カッター
5.マーケット
欧米における3D金属積層造形の主要マーケットは、航空宇宙関係、医療関係、F1等レーシング関係、金型関係、試作関係である。しかし、すでに3D金属積層造形装置は1,000台以上市場に出ており、現在も各装置メーカーは製造に忙しい状態が続いている。このことから新しい発想の製品がどんどん開発され新たなマーケットを今後生み出していく可能性が高いと容易に想像できる。以下に興味深い事例を紹介する。
金型関係でも複雑な冷却が求められるプラスチック金型用途だけではなく、車のタイヤのようなゴム型でも写真14、15のように採用が始まっている。微細でかつ高さが必要なリブ形状には最適である。
以上の事例紹介は、世界市場でのほんの数例に過ぎない。すでに1,000台以上の3D金属積層造形装置が出ているということは、各分野で用途開発が飛躍的に進んでいることが理解できる。
一方、この技術の背景には、従来ものづくりで培ってきた種々の技術要素が必要で、決して機械が製品を作ることはできない。人の知恵と蓄積されたノウハウが入らないと求められる製品を作ることはできない。しかし以上に説明してきたように、世界では用途開発がすさまじい勢いで進んでいる。それを見ても大変大きな市場があると考えられるし、今までものづくりで世界をリードしてきた日本として、3D金属積層造形技術を利用し、新たな商品の開発に取り組むべきことは自明の理である。
図11 レコードのカートリッジ
図12 航空機部品
図13 フィルター
図14 タイヤ金型
図15 タイヤ
6.おわりに
金属積層造形技術はこれまでに無い新たな発想で、かつ既存の技術と補完しあうことでさらなるものづくりの発展が望める。世界では、すでに1,000台以上の装置が市場に入り、必要な高品質パウダーが開発され、各ユーザーはそれらを使い新商品開発を進めている。新たな製造法での商品化には時間軸が必要であろう。その意味から日本でも積極的に、それもすばやく着手していくことを望みたい。今までの日本はどちらかといえばスキルワーカーの育成を行ってきたが、これからは金属積層造型技術を使うスキルエンジニアの育成にシフトしていくことが重要と考えられる。
金属積層技術が日本のものづくりを変え、世界を変えていくことを大いに期待したい。
季刊「溶射技術」Vol.34-No.1(2014年8月発行)「技術トレンド」掲載