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金属積層造形におけるあらゆるご要望にお応えいたします
レーザ・EB・アークを熱源とした金属3Dプリンタと材料
愛知産業(株) 商品統括部 レーザ・紛体事業推進統括課
木寺 正晃(Masaaki Kidera)
1.はじめに
2013年の米国オバマ大統領の一般教書演説に端を発したAdditive Manufacturing(積層造型技術)の一般産業のへの浸透は、わずか4年で大きな変化を遂げた。その中でも特にGE社がパウダーベッド方式で製造した部品を航空機へ採用するという動きが、AMのマーケットを牽引しているといっても過言ではない。さらにGE社ロードマップの中ではこれら以外にも、いわゆる指向性エネルギー堆積型と呼ばれるLMD(Laser Metal Deposition)方式や、一般的な溶接ワイヤを使用した造形方式で電子ビームを熱源としたEBAMや、アーク溶接による造形(WAAM)にも言及しており、いわゆるAMに分類される技術を十分に活用すべく技術開発を加速していく姿勢がうかがえる。
ここで改めて現在のAM技術についてまとめてみたい。当初はいわゆるパウダーベッドフュージョンと呼ばれる、@SLM(Selective Laser Melting)方式および、AEBM(Electron Beam Melting)方式が脚光を浴び、さまざまな産業における技術革新が期待された。
さらに、BLMD(Laser Metal Deposition)と呼ばれるレーザクラッディングを応用した技術、C電子ビームとワイヤによる金属積層造型技術EBAM(Electron Beam Additive Manufacturing)や、Dアーク溶接を応用した金属積層造型技術WAAM(Wire and Arc Additive Manufacturing)の開発も進み始めている。大きなポイントとしては、先述の@とB技術が最初から積層造形技術として開発されたのに対して、Aの技術はもともと金属の表面改質のための技術、C、Dにいたっては溶接そのものであり、既存技術からの応用となる。今回はこれらの技術と材料について紹介する。
2.それぞれの技術の特徴
表1は、先述した@〜Dの技術のキーファクターとして熱源・材料・材料供給法・一般的な呼称をまとめたものである。
表1 金属積層造形の種類
@およびBはいわゆるパウダーベッドフュージョンと呼ばれる方式で、熱源がレーザとEBの場合では詳細は異なるが、おおよそ下記の手順で造形を行う。a) 施工エリアに金属粉末を敷く。b) レーザまたはEBを照射し、任意の部分を溶融凝固させる。 c) 粉を敷くテーブルが下がる。これらの動作を何千回と繰り返すことで造形物ができ上がる。 この時のZ方向の1パスにおける肉盛り高さ製品の精度に影響するファクターの1つとなる。おおよそではあるが、レーザ方式では装置メーカーにもよるが10μから60μ程度、EB方式では100μ前後が一般的な1パスの肉盛り高さとなる。
Aは、表面改質や部品補修を目的としたレーザクラッディングという技術である。レーザを照射してできた溶融プールに金属粉末を送って肉盛り施工を行う技術である。最近では、大手工作機械メーカー数社がマシニングセンタにこの技術を組み合わせた複合機を発表し、話題になっている。
Cは、従来から存在した電子ビーム溶接機にワイヤ送給機構を組み合わせたもので、従来から存在した技術である。大きな特徴は1mを超える大きなサイズの造形を真空下で行えることである。
Dも従来のアーク溶接を応用したもので、溶接という意味では新しいものではないが、その造形サイズは設備仕様によっては数m以上のものも可能である。
それぞれの技術の特徴から考えると、パウダーベッド方式は過去にない新たな設計で金属3Dプリンタだからこそできる全く新しい製品を生み出すための装置であり、ワイヤ送給方式は大型部品を従来の切削工程よりも早く安く製造するための技術であり、レーザクラッディングはワイヤ方式寄りに位置する技術であると考えられる。
3.それぞれの技術の適応材料
金属3Dプリンタを検討する際に、材料が粉末もしくはワイヤを問わず話題になるのが、造形可能材料である。金属3Dプリンタの根幹は肉盛り溶接であるということであり、そして溶接という観点で考えれば溶接可能材料は造形可能である。
しかしながら、造形可能とされる材料はそこまで多くはない。これはどういうことかというと、溶接条件(造形条件)が出ている材料が少ないということである。ビーム系とアーク系溶接の専門性の違い、ワイヤと粉末という材料の違い、さらに市場における装置の絶対数の少なさも相まって、全く新しい溶接技術体系としての研究が必要となる。
材料そのもので考えてみると、溶接用のソリッドワイヤ自体は長く研究され、品質管理など含めてある程度確立されており、そのまま造形用としても使用可能であるが、造形用粉末に関しては従来の溶射やその他の粉末冶金用の粉末は使用できず、専用の材料が必要となっている。例えば、25mm角のキューブをパウダーベッド方式で造形するのに必要な溶接長はおよそ8000mとなる。この時の1層の厚みは数十ミクロンであることも考えると、健全な溶接を行うためには装置はもちろん、材料の品質要求が非常に高くなってしまうことは、ある意味仕方がない。
改めて述べるが、ワイヤにおいても粉末においても条件が出ていない材料が多いが、将来的には適応可能材料は増えていくと考える。
4.当社の金属3Dに関する取り組み
当社は、Bの電子ビームを熱源としたパウダーベッド方式を除き日本国内において下記の海外パートナーとともにサービスを提供している。
(1) SLMソリューションズ
研究開発用途での試験装置を多く制作してきた同社には、ユーザーの要求を元に開発された、試験的造形だけはではなく、将来的な量産を視野に入れた特殊機構が多く取り入れられている。研究開発用に向くSLM125、研究開発から試作に向くSLM280、そして将来的な量産を視野に入れたSLM500がラインナップとしてそろっている。また、世界で初めてファーバーレーザを搭載し、最大4台のレーザによる同時施工、インラインのモニタリングシステムを搭載するなど、非常に挑戦的な開発を行うメーカーである。表2にSLMシリーズ仕様を示す。
(2) Trumpf
LMDシステムは、金属3Dプリンタよりも早くから研究・商品化がされていたが、その導入台数(トルンプ社単体)は全世界130台ほどである。これは当初の技術が溶射の代替として表面改質や部品の補修に主眼を置いていたからであると考える。しかしながら複数の金属粉末を同時に、しかもそれぞれの比率をある程度コントロールすることで合金形成の実験や、金属パウダーと同時にセラミックのパウダーを送ることも可能である。このように造形が手軽にできると同時に、従来の技術では不可能であった希釈の少ない肉盛りもできることから、今後の応用が大いに期待できる技術であると考える。
例えば、タングステンカーバイドの粉末をカッターナイフの刃先に肉盛りすることで、切れ味の寿命を5倍以上延ばすことに成功したのである(図1)。
図1 刃先にタングステンカーバイドの肉盛 写真提供(英)LPW Technology社
(3) SCIAKY
SCIAKY社は米国シカゴに本社を持つ、航空宇宙向けの溶接においては有名な会社で、古くは抵抗溶接機、近年は電子ビーム溶接機を同マーケットに収めてきた実績のある会社である。電子ビームとワイヤを組み合わせた造形システムEBAM装置は、SCIAKY社がロッキードマーティン社などと基礎研究を行い、人工衛星用燃料タンクの製造においてコストを55%、納期を1/3以下に抑える目途が立っている(表3)。さらに2016年末にはエアバス社も装置を導入したとの発表があった。
造形を行うために加工点をリアルタイムで観察し、造形パラメータへフィードバックを行うCLC(Closed Loop Control)システムも搭載している。また、真空下であるためチタンなどの酸素を嫌う材料や、高いエネルギーであるため、Ta/Nb/Wなどの高融点材料への適用もできる。また、市販のソリッドワイヤで施工ができることも大きな特徴である。
写真3 Ti6Al4V製 Φ900mm造形物 写真提供(米)SCIAKY社
(4) Fronius
Fronius社は世界で始めてフルデジタルの溶接電源を開発した会社であり、2004年にはCMT(Cold Metal Transfer)という低入熱・低スパッタの溶接法を開発した。このCMTという技術がAMにおいて大きく力を発揮した。もともとは自動車産業向けのアルミと鉄の接合を実現するために開発された技術であるが、結果として低入熱での溶接が可能になり、その技術を3D造形という分野に応用することで造形も可能となった。先述のEBAM技術と同様に市販のソリッドワイヤにて造形が可能である。
5.粉末材料 LPWテクノロジー
LPW社は2007年にDr. Philip A Carroll氏によって設立された比較的若い会社であり、特に金属の積層造型用材料の供給に特化したメーカーである。LPW社の供給する材料は、航空機産業・一般産業・研究開発の各分野において要求される徹底した品質管理はもちろん、ユーザーのニーズに応じた新合金の開発や、使用前・中・後における材料のトレーサビリティを持たせるパウダーライフという管理システムも開発しているところである。
また、同社は航空機関連の認証であるAS9120、AS9100および医療関連であるISO13485を取得しており、イタリアのAVIO AERO社とともに航空機用タービンブレード用のチタンアルミナイド材の開発(図2)や、先に述べたカッターへのタングステンカーバイド肉盛り材の提供を行った会社でもある。
図2 TiAl製タービンブレード 写真提供(伊)AVIO AERO社
6.おわりに
当社は、技術商社として海外技術の紹介を行うだけでなく、技術提案型企業として豊富な実績を有しており、海外最先端技術や日本にはない高度技術などに精通し、常に海外との密接な技術交流を行い、その実力を養ってきた。金属積層造形の技術においても装置の販売だけでなく、ジョブショップとしても日々装置を使用して経験を重ねている。そのバックグランドには、70年を超える歴史のなかで、特に豊富な溶接技術・経験を有する技術陣と数多くの実例を有する設計陣を持ち、高度な設計力と独自性を活かしたシステム・装置の製造がある。当社は溶接技術、材料、装置をそれぞれ異なるソースから最高のものを選別し提供しており、溶接技術、材料、装置をそろえる当社だからこそ提供できる金属の積層造形のトータルソリューションがあると考える。
金属積層造形という技術は装置を導入したからといってすぐに成果が出るものではなく、ましてやプラス(利益)が出るものではない。むしろマイナスからスタートする装置である。しかし、新しい発想の製品に成功すれば他社との差別化を容易にし、会社の競争力を劇的に向上させられる技術であると考える。当社は、EBAM以外の装置は実際に設備を行い、国内ユーザーとともに技術可能性を検討することで、他にはない独自技術を持つ企業が増えることを期待したい。
「機械技術」2017年7月号 掲載