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レーザ・EB・アークによる金属積層技術と材料の最新動向
愛知産業 木寺 正晃
営業本部 商品統括部 レーザ事業推進統括課 主査
はじめに
金属の3Dプリンターが脚光を浴びるようになり、国内外から多くの情報が入ってきている。しかしながらメディアで多く取り上げられる樹脂の3Dプリンターのイメージが強いためか、装置そのものとそのプロセスが非常にセンシティブであることはあまり知られていないように思われる。これは、そもそも実際に稼動している台数が少なく、実際の装置に触れる機会が少ないことと、前後工程を含めたプロセスそのものが実は溶接施工と密接な関係があり、設計から冶金に至る高度な専門知識が要求されるプロセスであるという情報が行き渡っていないためだと思われる。今回は特にレーザによるパウダーベッドタイプの装置とその材料、そしてアークおよび電子ビームを熱源に使用した金属の3Dプリンターについて最新情報を紹介したい。
図1 金属3Dプリンターにおける設計から製品の完成に至るまでのフロー
図1は金属3Dプリンターにおける設計から製品の完成に至るまでのフローであるが、従来の工程においてはそれぞれの段階において独立した部署または担当が存在し、作業が進められていることが一般的ではないだろうか。しかしながら金属3Dプリンターを使用したフローにおいての理想は、これらの作業を1人の人間が行うことなのである。この部分が非常にわかりにくい部分であり、あまり説明がなされていないことが、最初の問題点であると考える。筆者が考える問題点はもう1つあり、通常は何か装置を導入する際に最も重要な「対費用効果がすぐに出せる」という考えである。
まず1つ目の問題である3D金属プリンターの作業フローについて要求される事項を以下にまとめる。
- 設計:3Dプリンターを使うことでしか達成できない新たな設計思想。
- データ準備:設計したものが金属3Dプリンターで造形可能であるかを精査し、不可能であれば可能とする方法を考える。このとき溶接ひずみや入熱、得られた金属組織などを考慮する必要がある。また、造形に必要なサポートの要不要の確認や最少化も行う。
- 材料の準備:通常の溶接だけでなく粉末冶金の知識が必要となる。
- 実施工:レーザ溶接+粉末冶金の知識が必要となる。
- 後工程1:使用済みの材料をリサイクルする。
- 後工程2:サポートの除去、熱処理(応力除去・時効処理など)、マシニングなどによる最終仕上げ。
たとえば施工中の熱変形だけでなく後工程の熱処理でも厳密には寸法は変化するので、これらすべての要素を勘案した上で設計を行うことが理想ということになってしまう。こういった複雑な工程を経なければならない以上、対費用効果がすぐに出せるということがないことがわかるだろう。
しかしながらそういった状況を脱し、より広いマーケットにて装置が使用される場を広げることに大きく貢献する装置メーカーとしてドイツのSLMソリューションズ社、材料メーカーとしてイギリスのLPWテクノロジー社がある。以下に両社の概要と製品の特徴を紹介する。
SLMソリューションズ社について
SLMソリューションズ社は同社名になったのは2011年と非常に新しいが、実は20年以上前から金属の積層造型装置の制作を行っていた老舗中の老舗である。たとえば同社が世界で初めて開発した技術には、@レーザ光源にファイバーレーザを採用 Aチタン・アルミ合金の造形 B400Wクラスレーザの採用 C出力の異なる複数台のレーザの採用 D同出力の複数のレーザによる同時施工 Eインラインのモニタリング装置、といったものが挙げられる。これは同社が商業ベースというよりも、多くの研究所からの依頼により特殊機を多く開発・納品してきたことが背景にある。また、その経験をもとにコマーシャルベースの製品をリリースするに当り、本施工法の弱点でもある施工効率の遅さをカバーするためにさまざまな独自の機構を開発してきた。用途に合わせたSLM社の3D金属積層造形装置のラインナップを図2に示す。
SLM社装置の特徴
研究開発用途での世間装置を多く制作してきた同社には、ユーザーの要求を元に開発された、試験的造形だけではなく、将来的な量産を視野に入れた特殊機構が多く取り入れられている。研究開発用に向くSLM125、研究開発から試作に向くSLM280、そして将来的な量産を視野に入れたSLM500がラインナップとして揃っており、各機種に特徴的な機構を有している。その機構を以下に説明する。
(1) 部分造型オプション
SLM125及びSLM280に搭載可能な機構で、SLM125では125×125×125mm、SLM280では280×280×350mmという造型エリアに対し、50×50×75mmまたは100×100×160mmと言った、部分的なエリアのみでの造型が可能になるものである(図3)。単純にFeをベースとした質量で比較した場合、例えば280×280mmのエリアにFe系材料のもので高さ10mmの物を造型しようとした場合、およそ6.2kgの材料が必要となるが、50×50mmのエリアであればそれは200g程度で済むのである。通常の施工サイズからの交換時間も30分程度と非常に短時間でできる。もちろん実際は計算通りにいかないこともあるであろうが、高価な、もしくは特殊な材料で試験が必要な場合に力を発揮する。
図3 部分造型オプション
(2) 複数台のレーザによる施工
中型機のSLM280の搭載レーザは通常400Wが1台であるが、400W+1000Wの組合せにより結晶方位のコントロールを念頭においた試験的な施工や、400W×2台、700W×2台による高速造型が可能となっている。さらにSLM500では、通常の400W×2台に対し400W×4台または700W×2台のオプションも備えている(図4)。材料そのものの特性やさまざまな要因が関係してくるので、レーザを増やせば単純に造型速度が倍になる訳ではないが、そのプログラムを含め、より効率的な施工を行うための機構が評価され、既に実際の製造ラインで使用されつつある。
図4 複数台のレーザによる施工
(3) 各種金属材料に適した豊富なレシピとオープンソースな装置
すでにSLM社が保有している開発済みのレシピ(パレメータ)、鉄系・SUS・ニッケル系合金・チタンおよびチタン系合金・アルミ系合金の合計各2種類程度のパラメータが無償で提供される。これは開発目的などで新たな材料にて試作を行う場合には、各ユーザーが自由に調整できる形になっており、さらに独自材料による造型レシピ開発を補助するソフトウェアも内蔵されているので、その汎用性は非常に高い物になっている。
また、欧米では公にはレシピが存在しない材料であってもユーザーが独自にレシピ開発を行い、他社にはまねができない独自のモノづくりも非常に盛んである。
(4) 双方向パウダーリコーター
粉末を敷く動作はリコーターの片側移動(往復の必要なし)で行うことができ、レーザの複数台同時施工により、30〜40%の施工時間削減が可能となる。
(5) インラインのモニタリングシステム
インラインのモニタリングシステムを搭載し、施工面を毎層観察可能。ひずみなどの発生によるリコーターの衝突回避はもちろん、例えば複数個制作している場合にそのうち1つに不良が発生してもその部分だけ施工を中止し、他の部分のみ施工を継続すると言ったことも可能。
(6) パウダーの再利用
特に研究期間で使用されることが多かったため、材料を交換しながら実験を行う場合は非常に簡単なパウダーのふるい装置を持っている。たとえ施行中であっても完全にクローズドの状態で20分程度で使用済みパウダーの選別・再利用が可能となっている。また、量産目的の際は完全にクローズループによる粉末の最利用が可能となっており、あらゆる場面に対応可能である。
LPW社について
例えばSLMの技術で25×25×25mmの立方体を作ろうとした場合、おおよそではあるがその溶接長は8000mにも及ぶという。しかも1層の厚さは50μm程度なのである。この8000mという溶接施工を問題なく行うに当り、装置そのものはもちろん、その材料がいかに重要かということは容易に想像できるだろう。レーザ・材料・冶金の複合技術である積層造形(AM)技術においてそれぞれの特性を理解した上で、それぞれの施工法に対して最適の材料を提供する。それがLPW社である。
LPW社は2007年にDr Philip A Carroll氏によって設立された比較的若い会社であり、特に金属の積層造型用材料の供給に特化したメーカーである。従来の金属粉末の供給会社と違うところは、ジョブショップ、工業、アカデミックの各分野において必要とされる、その徹底した品質管理から新合金の共同開発はもちろん、材料の品質管理にいたるまで幅広いサポートが可能なことである。たとえば、同社は航空機関連の認証であるAS9120、AS9100および医療関連であるISO13485を取得しており、イタリアのAVIO AERO社に対して航空機用タービンブレード用のチタンアルミナイド材の開発を行った会社でもある(写真1)。
写真1 TiAl製タービンブレード 写真提供(伊)AVIO AERO社
AM技術においてLPW社が取り扱う材料は多岐にわたり、一般流通商品として扱う材種だけでもニッケル系、コバルト系、Fe系、アルミ系、チタン系、銅系、そしてセラミックス系合わせて40種類以上、特注品も含めるとその材種は400種以上に及ぶ。これの意味するところは、先にも述べたが、AM技術において先行する欧米諸国ではメーカー純正のレシピが存在する材料はもちろん、他社との差別化を計るためにオリジナルの材料で製品開発を行っている会社が非常に多いことを意味しており、大きな成功事例が今回触れたイタリアのAVIO AERO社の例が挙げられる。しかも同じ成分でも製法によってその材料の特性は大きく変わるため、コスト・品質・安定性においてそのマーケットの要求に適したものを選択する必要がある。LPW社はまさにそのノウハウを所有しているのである。
さらにAM技術において材料は高価であることからリサイクルは必須であるが、各ユーザーによって造形物の形状や質量、使用する材料の種類が異なるときにいったいどうやって品質管理を行えばよいのかと言う問題に突き当たる。この問題を解決するために彼らが提供するサービスがPowder Solveである。たとえばある材料を100kg購入し、装置Aおよび装置B各50kgずつ入れたとする。このときパウダーは造形に使用した分、回収された分、未使用分に分類される。この状態でさらに足りなくなった分を補充しながら造形をしていくと、ねずみ算式にパウダーの使用履歴が増えてしまうのである(図5)。これを簡単に可視化し、管理するためのソフトウェアとサービスも開始した。溶接というものがそもそも不安定なものであり、サイズがまばらなパウダーを数十μmの厚みで肉盛を繰り返すこの施工法においてはなおさらである。可能な限り不確定要素を減らすことが必要な金属の3D造形技術において、単純に材料を供給するだけでなく長くこのマーケットにかかわってきたLPW社だからこそ提供できる品質管理システムである。こういったことからもLPW社は最も進んだパウダーメーカーの1つと言ってよいだろう。
図5 パウダーの使用履歴
既存技術の応用
金属の3Dプリンターという話になると前述のパウダーベッドタイプが脚光を浴びがちであるが、実はアークや電子ビームを熱源としたAM技術も存在する。アークであればイギリスのクランフィールド大学がFronius社製の溶接電源を利用して大手航空会社との共同研究で成果を出しつつあり、電子ビーム+ワイヤであれば米国のSCIAKY社がEBAMという名称で大きな成果を出してきている。これらの技術の特徴は従来の溶接技術を使用しながらも、綿密な入熱制御により大型構造物をより安価に早く作れないか、ということに主眼がおかれている。これは一般的なパウダーベッドプロセスが従来の技術では製造不可能な新しい製品を生み出すことに使用されることに対して、アーク方式や電子ビーム方式は大型構造物を削り出しよりも効果的に製造することを目的としているのである。例えば写真2は、あるチタン製の部品で直径が900mm程度のものだが、最終製品向けには5組10個が必要になるものである。工程を切削から造形に切り替えることで、その制作期間とコストを半分以下にすることに成功したものである。
写真2 Ti6Al4V製 Φ900mm造形物 写真提供(米)SCIAKY社
ではアーク方式と電子ビーム方式でどのような差があるのだろうか。まずはその自由度の差が挙げられる。極端な言い方をすれば、アーク方式に造形サイズの制限はないのである。例えば6軸ロボットを走行台車に乗せれば自動車のフレームや船舶、果ては建築物にも応用ができるかもしれない。また、非常に新しい技術であるため、従来のアーク溶接電源が応用できる一方で、パウダーベッド方式で言うところの目的の材料で任意の形状を作るためのレシピが存在しないのでこれからの開発が期待される。
次に溶接雰囲気が挙げられる。アーク方式が大気中もしくは不活性ガス雰囲気中で施工が行われるのに対し電子ビームは真空中で行われることである。そのため電子ビーム方式は真空チャンバー内で施工を行う必要があり、そのサイズにも制限ができてしまう。しかしながら溶接品質という意味では非常に優れているのでアーク方式との棲み分けはできてくると考える。
さらにSCIAKY社のEBAMは造形レシピを開発するためのソフトウェアも搭載されており、これまでにタングステン・タンタル・ニオブなどの特殊材料の造形にも成功しており、写真3はタンタル製のゴブレットである。これは現状ではEBAMでしか達成できない造形であり、限られたマーケットではあるが、加速器や発電関連の特殊部品への応用が期待される。
写真3 タンタル製ゴブレット Φ50×H100mm 写真提供(米)SCIAKY社
また、アーク・EBAMともに大きく期待できるマーケットの1つとして型関連のマーケットを挙げている。特に大型の型の補修や設計変更における日数・コストの削減が期待されるためである。
大きな可能性を秘めるAM技術
当社は、技術商社として海外技術の紹介を行うだけでなく、技術提案型企業として豊富な実績を有しており、海外最先端技術や日本にはない高度技術などに精通し、常に海外との密接な技術交流を行いその実力を養ってきた。金属積層造形の技術においても装置の販売だけでなく、ジョブショップとしても日々装置を使用して経験を重ねている。そのバックグランドには、70年を超える歴史のなかで特に豊富な溶接技術・経験を有する技術陣と数多くの実例を有する設計陣を持ち、高度な設計力と独自性を活かしたシステム・装置の製造がある。我々は溶接技術、材料、装置をそれぞれ異なるソースから最高のものを選別し提供しており、溶接技術、材料、装置を揃える我々だからこそ提供できる金属の積層造形のトータルソリューションがあると考える。
筆者は2015年11月に独フランクフルトにて開催された3Dプリンターに関する展示会、「formnext」を訪問してきたが、その会場でAUDI社は部品のみならず金属3Dプリンターにて製作し、実際に使用しているアルミの押出し金型の展示も行っていた。内部に特殊な形状・流路を持たせることで、従来の工法で製作した金型よりもより効果的な部品製造が行えるとのことであった。金型部分への応用はこれに尽きるところがあるが、その設計思想や内部形状は表に出てこない。装置を所有するユーザーのノウハウとなるのである。装置を導入しいかに早く自分のものとするかが、間違いなく鍵となるだろう。一般に部品単価が安いと言われる自動車業界においても、金属3Dプリンターの導入が進んでいる理由がここにあると言える。同時にまったく逆の発想であるが、既存の型造形技術に対する応用技術としてアーク造形やEBAM技術というものが存在し、AMでありながらコストダウンに使用する例も見受けられることから、AM技術そのものが大きな可能性を秘めていることもうかがえる。また、EBAMについてはアメリカの自動車メーカーが研究目的で導入するという情報もあり、ますます興味深いマーケットとなった。しかしながらあらゆるAM技術はユーザーによる研究開発が必須であり、早く始めれば始めるほど成功時の見返りは大きいものとなる。今後は自分のいるマーケットだけでなく、さまざまな応用の可能性を検討することで他にはない独自技術をもつ企業が増えることを期待するものである。
「機械設計」2016年5月号 掲載